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ケレタロでの暴動で再燃したW杯開催国剥奪の懸念 メキシコは史上初の3度開催を実現できるのか?
3月5日にケレタロで発生したスタジアム内暴動がワールドカップ開催の是非を問う議論に発展

▲ 5日にケレタロのエスタディオ・コレヒドーラで発生した暴動では、多数の負傷者と逮捕者を出す惨事となった(写真提供:TyC Sports)
◆ ◆ ケレタロでの事件と凶悪化の特性 ◆ ◆
リーガMX(メキシコ1部リーグ)の後期第9節「ケレタロ×アトラス」では、後半途中にスタンドで両チームのインチャ(サポーター)が暴徒化。加害側はケレタロのインチャとみられ、地元当局の発表では死者はいないとされているが、TV Azteca のジャーナリストによれば17人の死亡があったとの情報もあり、深刻な事態になった。両チームのインチャは過去にも何度か衝突したことがあるが、ここまでの惨事は今回が初めてだった。
この事件について、UNAM(メキシコ国立自治大学)政治学部のウーゴ・サンチェス・グディーニョ教授は、事件の背景に犯罪者グループの存在があるとの認識を示した。
「この次元の暴力は、メキシコのサッカークラブの背後でカルテルに関与する犯罪組織の、見えざる浸透を明らかにした」

▲ 5日にケレタロのエスタディオ・コレヒドーラで発生した暴動の一幕(写真提供:ESPN)
「最も暴力的な集団は乱闘になると自らシャツを脱ぐか、相手を裸にして殴打する傾向にある。そうした場面になったときには、犯罪組織の暗躍を示しているとみなしていい」
メキシコでは麻薬組織撲滅作戦を開始した2006年以降、暴力のスパイラルに巻き込まれている。主な衝突は麻薬組織と当局によるものだという。補足までに、2021年におけるメキシコ国内の故意殺人の被害者数は33,308(メキシコ治安・市民保護省 発表)。人口10万人あたり26人が殺されている計算だが、これでも2020年よりは3千人以上も被害者が減った。
◆ ◆ 当局からの制裁が軽いと感じている選手たち ◆ ◆
ケレタロには、バーラブラバ(フーリガン)のスタジアム入場を3年間禁止や、アウェイでも1年間は入場禁止など複数の制裁が科された。しかし、メキシコでプレイするサッカー選手の大半は、今回の当局の制裁について「生ぬるい」と酷評しており、暴力的な集団を撲滅できる機会が失われたと失望しているという。
◆ ◆ 2026年のワールドカップ開催に暗雲? ◆ ◆
2026年のワールドカップは史上初の3カ国共催で、開催国はUSAとカナダ、メキシコだ。だが、とりわけ断続的にサッカーにまつわる問題が噴出するメキシコで、ワールドカップを開催していいのかという議論はたびたび挙がっている。
先のケレタロでの暴動はもちろん、昨年11月には首都シウダー・デ・メヒコ(メキシコシティ)でクルス・アスルのインチャによる同性愛侮辱発言問題もあり、その都度「メキシコは開催国としてふさわしいのか」と物議を醸している。ちなみに、メキシコは予定通り2026年にワールドカップを開催すれば、ワールドカップを3度(1970、1986、2026)開催する唯一の国となる。これまでに、イタリアやブラジル、フランス、ドイツ(西ドイツ時代を含む)がワールドカップを2度開催しているが、3度開催した国は(現時点で)ない。ゆえに、メキシコにとって2026年の開催国となるのは大きな名誉なのだ。

▲ アルゼンチン代表(当時)FWディエゴ・マラドーナが優勝トロフィーを掲げた1986年のワールドカップは、メキシコが開催国だった(写真提供:ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員会)
「FIFAとCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)は懸念を示しているが、メキシコが2026年の開催国から除外されるリスクについては、何の言及もない」
この件については、前述のグディーニョ教授も悲観視してはいない。メキシコ国民はワールドカップで多額のお金を費やすうちのひとつであり、「4年後にワールドカップを開催しないとしてFMFに制裁を科したら、それは“FIFAのオウンゴール”となるだろう」と解説している。2018年大会では、約43,000人のメキシコ人がロシアを訪れた。そして今年は、実に8万人ものメキシコ人がカタールへ行くと推定されている。
それだけに、メキシコサッカー界にはこれ以上問題を起こさぬように自浄作用が求められているわけだが…。ケレタロでのような暴動が、今後も起こらない保証はどこにもない。そして万が一メキシコが2026年の開催国から除外されるような事態になれば、ワールドカップへの愛が深い国民性ゆえの全国的な暴動が起こらないとも限らない。
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2022.03.15
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