
- DO YOU SPEAK FOOTBALL?世界のフットボール表現事典

「PKは運」なのか!? 心理学や統計学などで往年のPK戦を分析した映画をフットボール映画祭で上映
サッカー本大賞2023で特別賞を受賞した「DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典」から一部紹介

▲ 『サッカー本大賞2023』で特別賞を受賞した「DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典」(写真:Toshihiro Nishino)
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2022年のカタールW杯で、日本代表はクロアチアとのPK戦で敗れてベスト8入りを果たせなかった。このとき「PKは運」論争が巻き起こったが、それを検証できそうな映画がヨコハマ・フットボール映画祭で上映予定となっている。当欄では、PKにまつわる各国のユニークな表現・エピソードをまとめて紹介。
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ネイマールはサントス時代、サンパウロとのダービーマッチのPKでパラジーニャ「小停止」をやったが、出し抜かれたサンパウロのゴールキーパー、ロジェリオ・セニはこう警告した。「ネイマールは、ブラジルでまだこれが許されている間にやっておけばいい。ヨーロッパに行ったらできなくなるからな」(ただし、自身が有名なPK職人だったロジェリオは、自分が蹴る時には小停止を自重しなかった)。カカーも「ブラジルだけだ!」とツイートした。しかし、当時のFIFA会長ゼップ・ブラッターは、笑い事ではないとして、「これはごまかしだ」と不満を述べている。
ペレも1959年のブラジル代表合宿中、ジジがこのトリックをやったのを初めて見て、現役中に使ったが、その後この技は使われなくなった。それが復活して、2010年3月に次の被害者が出た。サンタ・カタリーナ州選手権(カンピオナート・カタリネンセ)の試合で、ジョインヴィーリのリマがパラジーニャをやったので、地方の小クラブ、ブルスケのゴールキーパーのウェンデウが向きを変えようとして、左肘を脱臼したのである。「これは残酷すぎる」と、脱臼の結果3か月も戦列を離れることになったウェンデウは言った。「皆、ゴールキーパーにケガをさせるためなら何でもする。もしパラジーニャ禁止投票があったら、僕は1番に並ぶよ」。彼の願いは2か月後、ワールドカップにぎりぎり間に合うタイミングで叶えられた。国際フットボール評議会はパラジーニャを「非スポーツ的行為」として禁止し、イエローカード該当のファウルとしたのだった。
「どうやったら彼に勝てるかというのが最初のアイディアだったんだ」
パネンカはまったく新しいPKテクニックを編み出した。キーパーはキッカーがどちらに蹴るか読んで動かなければならないことを利用したのだ。彼はネットを蹴り破るがごとく突進しておいて、ボールにちょんと触れるだけにした。ボールは優美な曲線を描いてゴールの真ん中にぽとりと落ち、不幸なキーパーは左右どちらかに倒れ伏すのである。パネンカは2年間、この技術に磨きをかけ、ボヘミアンズにいくつかのゴールをもたらした。
ところが、ユーゴスラヴィアで行われたユーロ1976で、彼はチームメイトからこれを試さないよう強く求められた。同室だったチェコ代表キーパーのイヴォ・ヴィクトルは、やったら部屋に入れないとまで言ったのである。しかし、ベオグラードでの決勝、チェコスロヴァキアが西ドイツとフルタイムで2-2と引き分けると、パネンカに歴史を作るチャンスが巡ってきた。PK戦、西ドイツのウリ・ヘーネスが4人目のキッカーを務めたが、クロスバー上に大きく外し、最初のPK失敗をする。パネンカは、西ドイツのキーパー、ゼップ・マイヤーがボヘミアンズの試合をあまり観ていないと踏んで、練習場でのフルシュカとの対決を信じることにした。マイヤーが左に飛ぶと、パネンカのシュートはアーチを描いてネット中央に吸い込まれた。チェコスロヴァキアは初めてヨーロッパ王者に輝き、パネンカはフットボール史上不滅の存在となったのである。そして、選手がゴールから11メートル離れて虎穴に入る度胸を示すたび、彼の名が語られる。
だが驚いたことに、世界中でチップキックのPKがパネンカと呼ばれるのに、チェコでは別の名なのだ。チェコではvršovický dloubák (ヴルショヴィツキー・ドロウバーク) 、つまり「ヴルショヴィツェのチップキック」と呼ばれている。ボヘミアンズのスタジアムがあり、パネンカが名を残す技をマスターしたプラハの広場、ヴルショヴィツェを称えてのことである。
(「DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典」、P.56、P.122 より抜粋、一部引用) © Eastpress
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vol.11【 paradinha 】パラジーニャ (小停止)
ブラジル
2010年南アフリカ・ワールドカップに先立つこと数か月、ブラジルのスタジアムのペナルティエリアを、論議を呼ぶ流行が席巻していた。ペナルティキッカーが助走をして不意に止まり、ゴールキーパーが跳ぶ方向を見定めてから反対側の隅にボールを転がすのである。これをロナウドがやった。ネイマールもやった。フレッジもやった上、ボールを蹴り込む前にフェイントまで入れた。ゴールキーパーたちは激怒する。ネイマールはサントス時代、サンパウロとのダービーマッチのPKでパラジーニャ「小停止」をやったが、出し抜かれたサンパウロのゴールキーパー、ロジェリオ・セニはこう警告した。「ネイマールは、ブラジルでまだこれが許されている間にやっておけばいい。ヨーロッパに行ったらできなくなるからな」(ただし、自身が有名なPK職人だったロジェリオは、自分が蹴る時には小停止を自重しなかった)。カカーも「ブラジルだけだ!」とツイートした。しかし、当時のFIFA会長ゼップ・ブラッターは、笑い事ではないとして、「これはごまかしだ」と不満を述べている。
ペレも1959年のブラジル代表合宿中、ジジがこのトリックをやったのを初めて見て、現役中に使ったが、その後この技は使われなくなった。それが復活して、2010年3月に次の被害者が出た。サンタ・カタリーナ州選手権(カンピオナート・カタリネンセ)の試合で、ジョインヴィーリのリマがパラジーニャをやったので、地方の小クラブ、ブルスケのゴールキーパーのウェンデウが向きを変えようとして、左肘を脱臼したのである。「これは残酷すぎる」と、脱臼の結果3か月も戦列を離れることになったウェンデウは言った。「皆、ゴールキーパーにケガをさせるためなら何でもする。もしパラジーニャ禁止投票があったら、僕は1番に並ぶよ」。彼の願いは2か月後、ワールドカップにぎりぎり間に合うタイミングで叶えられた。国際フットボール評議会はパラジーニャを「非スポーツ的行為」として禁止し、イエローカード該当のファウルとしたのだった。
vol.12【 panenka 】パネンカ (チップキック)
チェコ
フットボール史上もっともアイコニックなペナルティキック(PK)は、一握りの小銭を賭けた練習場での競争がなかったら、生まれなかったかもしれない。プラハのクラブ、ボヘミアンズの優れた司令塔だったアントニン・パネンカは、毎日練習の最後にしていたPK戦で、ゴールキーパーのズデニェク・フルシュカを出し抜けないことに苛立っていた。「フルシュカはPKストップが得意で、私はよく負けた。賭けていたから、随分損をしていたんだ」と、パネンカは「ブリザード」誌でカレル・ヘーリングに語っている。だが名案が湧く。「どうやったら彼に勝てるかというのが最初のアイディアだったんだ」
パネンカはまったく新しいPKテクニックを編み出した。キーパーはキッカーがどちらに蹴るか読んで動かなければならないことを利用したのだ。彼はネットを蹴り破るがごとく突進しておいて、ボールにちょんと触れるだけにした。ボールは優美な曲線を描いてゴールの真ん中にぽとりと落ち、不幸なキーパーは左右どちらかに倒れ伏すのである。パネンカは2年間、この技術に磨きをかけ、ボヘミアンズにいくつかのゴールをもたらした。
ところが、ユーゴスラヴィアで行われたユーロ1976で、彼はチームメイトからこれを試さないよう強く求められた。同室だったチェコ代表キーパーのイヴォ・ヴィクトルは、やったら部屋に入れないとまで言ったのである。しかし、ベオグラードでの決勝、チェコスロヴァキアが西ドイツとフルタイムで2-2と引き分けると、パネンカに歴史を作るチャンスが巡ってきた。PK戦、西ドイツのウリ・ヘーネスが4人目のキッカーを務めたが、クロスバー上に大きく外し、最初のPK失敗をする。パネンカは、西ドイツのキーパー、ゼップ・マイヤーがボヘミアンズの試合をあまり観ていないと踏んで、練習場でのフルシュカとの対決を信じることにした。マイヤーが左に飛ぶと、パネンカのシュートはアーチを描いてネット中央に吸い込まれた。チェコスロヴァキアは初めてヨーロッパ王者に輝き、パネンカはフットボール史上不滅の存在となったのである。そして、選手がゴールから11メートル離れて虎穴に入る度胸を示すたび、彼の名が語られる。
だが驚いたことに、世界中でチップキックのPKがパネンカと呼ばれるのに、チェコでは別の名なのだ。チェコではvršovický dloubák (ヴルショヴィツキー・ドロウバーク) 、つまり「ヴルショヴィツェのチップキック」と呼ばれている。ボヘミアンズのスタジアムがあり、パネンカが名を残す技をマスターしたプラハの広場、ヴルショヴィツェを称えてのことである。
(「DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典」、P.56、P.122 より抜粋、一部引用) © Eastpress
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2023.06.17
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