DO YOU SPEAK FOOTBALL？世界のフットボール表現事典

vol.2【 Zlataner 】ズラタネール （ズラタンする）

フランス　スウェーデン

2011年のパリ・サンジェルマン(PSG)買収後、カタールの政府系ファンドが看板となる選手を探した際、ズラタン・イブラヒモヴィッチに勝る選択肢はまずなかった。彼が獲得してきた優勝カップのコレクションはPSGのコレクションより多く、生来の態度の大きさは高慢ちきなパリのウェイターをも凌ぐほどで、何よりも、彼のプレースタイルはエレガント、個人技は圧倒的にスペクタクルだったからである。イブラは巧みにハイボールを仕留め、相手をバカにしたようにペナルティキックを流しこみ、追いすがる相手選手を軽い腰の一撃で置き去りにする。こんな時、PSGのホーム、パルク・デ・プランスのどよめきは、サクレクール寺院でも聞こえるほどだった。彼はフランス語が話せなかったが、そんな必要はなかった。イブラが上から目線で話す英語音声のダイジェスト版は、ハリウッド映画やアメリカのTV番組やラップミュージックで育ったフランスの若いサッカーファンにすぐわかった。どうやら、SNSでたちどころに広まるよう、わざとそうしていたらしい。

イギリスのTV風刺人形番組『スピッティング・イメージ』のフランス版と目される番組、LesGuignolsdel’Info(レ・ギニョル・ド・ランフォ、「ニュース人形」)の制作者たちが、眼前に現れた巨大な自我の持ち主に気づくのに、長い時間はかからなかった。TV局Canal+のこの番組に最初に登場した時、イブラヒモヴィッチはゲームFIFA13の声として描かれた。PSGを選んでプレーに熱中する10代のゲーマーに、自分はズラタンでプレーすると言ったのだ。なぜなら「PSGとはズラタンのことだからな」。そしてこう続けた。「ズラタンの相手はどこがいい?」子どもたちは「OM(オランピック・ドゥ・マルセイユ、伝統的にPSGのライバル)!」と答える。すると、声は「すばらしい、おまえたちはOMを2-0でズラタンしてやったぜ」と言うのだ。若いゲーマーたちが「まだプレーしてないのに!」と抗議すると、イブラは「しなくていい。ズラタンならおまえたちが勝つに決まっている」と答えたのだった。

情けないことに、カタール買収初年度の2012年、PSGはタイトル争いでモンペリエに敗れた。しかし人形劇の予知能力は証明される。PSGはそこから4シーズン連続でリーグ・アンを制し、イブラはPSGに在籍した4シーズン中3シーズンを得点王として終えた。そして、人形劇が編み出した動詞ズラタネールも実際に誕生する。2012年、スウェーデン語辞書に動詞zlatanera(ズラタネーラー、「支配する」)が加えられ、2014年にはナイキがCMキャンペーン“DaretoZlatan"「ズラタンしてやれ」を打ち出したのだった。

（「DO YOU SPEAK FOOTBALL？ 世界のフットボール表現事典」、P.169〜170 より抜粋） © Eastpress