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ラテンアメリカで頻発するサッカー絡みの暴力と犯罪 根底にあるのは「男らしさの“有毒性”」か
3月だけでもメキシコ、コロンビア、ブラジル、ウルグアイで続発したサッカー関連の事件の背景をブラジルの大学教授らが解説
▲ 3月6日にブラジルのミナス・ジェライス州ボアビスタで発生したサポーター同士の場外乱闘は、死者を出す殺人事件になってしまった(写真提供:Globoesporte)
ケレタロで暴動が発生した3月5日、遠く離れたコロンビアではカリのクラシコ「アメリカ・デ・カリ vs デポルティーボ・カリ」のスタジアム付近で、両チームのサポーターによる場外乱闘があった。さらにはその翌日(3月6日)には、ブラジルのミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンチで行われた「アトレチコ・ミネイロ vs クルゼイロ」のクラシコを前にボアビスタ地区でサポーター同士の暴動が発生。25歳のクルゼイレンセ(クルゼイロのサポーター)が拳銃で射殺される痛ましい事件が起きた。
さらに同日、ウルグアイでは審判員2名への殺害予告など脅迫があったことを受けて、AUDAF(ウルグアイサッカーレフェリー協会)が同日の公式戦をすべて中止・延期とする措置を強いられた。
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直近でこれだけの事件が発生した原因については、専門家もお手上げの様子。ブラジル・サンパウロ州のUnicamp(カンピナス州立大学)のエロイーザ・ヘイス教授は、次のように説明している。
「サッカーでの暴力をなくす方法はない。それは残念ながら非常に明確な現実だ。だが、減らす方法はある。暴力を減らすには、完全な構造の構築と、完全な公共政策が必要だ」
▲ 6日にミナス・ジェライス州で起きた暴動で銃撃されて命を落とした25歳のホドリーゴ・マルロン・カイターノ・アンドラージさん。5歳の息子を持つ父親でもあった(写真提供:Globoesporte)
アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、ホンジュラス、エクアドル、ペルー、ウルグアイなどの各国は、2000年代から暴徒化した者に懲役刑を科すための法整備を推進してきた。とりわけバーラブラバ(フーリガン)をスタジアムから排除するための生体認証や映像監視などのシステムは、先んじて導入したヨーロッパのそれを模倣して取り入れた。
しかし、そうした対策も暴力の根絶には至っておらず、ブラジルでは2009年からの11年間で157人が、アルゼンチンでは過去20年間で136人が、そしてコロンビアでは2001年からの19年間で少なくとも170人がサッカー絡みで命を落としている。
なぜ、中南米ではサッカーを暴力と切り離せないのか。コロンビアスポーツ研究協会の社会学者ヘルマン・ゴメス氏は、「各国の政策の最たる失敗は、それらがもっぱら安全保障に焦点を当てていることにある」という。要約すると、暴力の根底にある原因を解決していないということである。失業、不平等、禁止薬物やアルコールなどへの対策が不十分、またはそれらが無視されている現状に、同氏は警鐘を鳴らした。
それだけではなく、組織化された暴力的なサポーター集団がクラブ側と癒着している“共謀容疑”が発覚しても、そこに正義のメスを入れる社会的な動きがないという。まさに「自浄作用の欠如」だ。
以上を踏まえて、前述の大学教授は『履き違えた「男らしさ」の“有毒性”』と表現。特定のチームを応援するサポーターの一部は、ライバルチームのサポーターを力で征服すべきという歪んだ競争心に洗脳されていると断じた。ゆえに同教授は、そうしたバーラブラバへの教育を目的とする“完全な公共政策”の重要性を説いた。ちなみに、男らしさの有毒性については、メキシコの女性活動家エステファニア・ベロスさんも同様の主張をしている。
【関連記事】「“男性”の暴力は制御不能」「男らしさを履き違えた有毒性の証左」 女性活動家の持論に批判渦巻く
◆ ◆ COVID-19のパンデミックによる反動 ◆ ◆
同教授は他にも、ラテンアメリカで暴力が増加している遠因に COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によるパンデミックがあるとも論じた。
実例を挙げるとブラジルでは2月12日以降、パウメイレンセ(パウメイラスのサポーター)への暴力やグレミオ選手団の乗車したバスへの投石事件など、少なくとも9件の事件が発生している。感染拡大による閉塞感や貧富の差の拡大などが、バーラブラバの怒りを助長している可能性も否定できないという。
南米で愛するクラブを応援するサポーターの大半は、善良な人々だ。だが、前述のような一部の心ない暴徒の悪行は、そのクラブのサポーター全体の印象を悪化させるだけでなく、善良なサポーターにまで連帯責任を負わせることも少なくない。同教授は、最後に次のような表現で暴徒化する者を断罪した。
「バーラブラバへの懲罰が罪の重さと釣り合っていない。彼らへの厳罰化は喫緊の課題だ。逮捕されても、釈放されれば彼らはまた次の試合で同じように暴れるだろう」
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2022.03.15
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